会社に対する思い入れの強さ、社員の 結束力が、彼らに会社再興の道を歩ませた。
残った社員の中で役職が最も上だった課長の深水の下に結束し、会社再興を決意した18人の社員達。 破産管財人とねばり強く交渉し、倒産した会社の商品の他に商標権、工業所有権などを引き継ぐことに成功し、新会社を設立した。社名は株式会社パラマ・テック。この間まで彼らが働いていた会社の社名、パラマの文字を新会社にも使うことにした。「自分達が会社を再興するんだ」。そんな思いが込められていた。もちろん、ノスタルジーだけで「パラマ」の文字を付けたのではない。顧客に継続性を印象づける効果もちゃっかり狙っていた。
「君の番になったよ」 4年目にかけた電話
資本金は社員が出し合って1000万円を集めた。だが、いきなり残った社員18人全員でスタートしたわけではない。「まず1人が食えるようにしよう。1人が食えるようになれば、次は2人が食えるようにしよう」。そう言って1人ずつ加えていったのだ。最後の18人目を「迎えに行った」のは新会社をスタートさせてから実に4年目だった。 「いよいよ君の番になったよ」 深水はホッとしたような安堵感を覚えながら、受話器の向こうでも声が弾むのを期待していた。 「えっ……」 相手は何の話か訳が分からないというような反応を示した。深水は多少気落ちしたが、気を取り直し、「会社を創った時に約束しただろう。もう一度皆で一緒に仕事をしようと。苦労したけどやっと君に帰ってきてもらえる環境ができたんだ」。いままでの状況を説明しながら「長い間待たせて済まなかった」と、受話器の向こうの相手に謝った。この時の社員は現在、パラマ・テックの技術課長である。 それにしても、なぜ彼らは再就職先を辞めてまで「古巣」に戻ってきたのだろうか。この疑問に対し、深水は次のような理由を挙げて答えた。 1.社員の会社に対する思い入れが強かった。 2.自らの意志で会社を辞めたわけではなく、解雇だったから未練もあったし、もう一度皆で一緒に働きたいという思いが強かった。 3.超ワンマン社長だったから、逆に社員の結束力が強かった。 4.商品に市場性があったから、皆がやれると思っていた。
以前の取引先も90%が 再取り引きを了承
4年間、大変は大変だったが、身軽になってのスタートだからやりやすい面もあった。「操業3カ月目で利益が1,500万円出た」と言うように、黒字に持って行きやすかった。とはいえ、深水には元々経営的素質が備わっていたと見るべきだろう。 苦労したのは金融機関と部品の調達だった。どこも新規取引には応じてくれないし、従来からの取引先はけんもほろろだった。 「まず借金を返してもらってからだ」 「いや、あれはパラマという会社で、私達はパラマ・テックですから、前の会社とは一切関係ありません」 「バカにするな。そんな理屈は俺には通用しない」 何度も追い返されながら、それでもねばり強く交渉し、最終的には以前の取引先の90%が再取引に応じてくれた。 考えてみれば虫のいい話だ。部品の納入代金をチャラにした上、昨日まで出入りしていた社員が似たような社名の名刺を持ってきて、取り引きをしてくれと言うのだから。たしかに法的には別会社だし、債務を引き継いでいるわけではない。それでも納得できないと憤慨したのは10%で、外注先の90%は部品の納入を了解してくれたのである。人に助けられて、現在まで来たと言っても過言ではないだろう。深水は詳しく語らないが、取引先に誠意を持って接してきたからに他ならない。先方の言い値で15年間仕入れてきた事実がそのことを物語っている。 この後も順風満帆で進んだわけではない。異業種交流で開発した商品が市場で大当たりしたかと思うと、クレームが発生して、責任のなすり合いから空中分解したり、「再興」を誓い合った18人の仲間もいまは5人が残っているだけだ。 だが、失敗を糧に、今年は同社の新製品、携帯用の心電計がアメリカ市場で爆発的に火が付き、日本市場でも大手メーカーとOEM契約を結ぶなど、今年から来年にかけて大きく飛躍しつつある。 この間の話は異業種交流の進め方とも関係し、非常に興味を引く所だが、次の機会に回したい。
企業を破産に導く 経営者のタイプは
最後に、企業を破産させる経営者のタイプについて、萬年浩雄弁護士(福岡市)の見方を紹介しておこう。 1.ポッと出のベンチャー企業の経営者等によく見られるが、経営者の器でない人。 2.現場を知らない、見ない経営者。 3.経営理論先行型の頭でっかちな経営者。2代目経営者に多く見られる。 4.超ワンマンなオーナー経営者。周囲にイエスマンしかいない裸の王様。的確な情報分析に基づいた判断ができない。 5.生真面目で律儀な経営者。このタイプは子供の貯金箱まで取り崩し、万策尽きて相談に来るから破産しか手の打ちようがない。 では、どうすればいいのか。 1.破産するにも資金はいるから、少なくとも半年前に弁護士に相談すべき。 2.金融機関や大手企業にはいいが、地元の債権者には絶対迷惑をかけない。これをやると再起できない。誠実な債務者は取引先が必ず助けてくれる。 3.業績がいい時に高給を取り、社長個人の担保物件をしっかり作っておけ。
|