昨秋来、福岡市で展開されている熾烈なデパート戦争を尻目に、次代の流通業をリードする二つの新しい動きが九州から起こっている。
一つはトリアス久山に代表される、売り上げ仕入れ方式という欧米型のテナントとの契約方法である。
もう一つは人口わずか2万7000人の鹿児島県阿久根市に開業した24時間営業の「AZスーパーセンター」(牧尾英二社長、売り場面積1万1635u)である。売り場面積1万uを超えた大型店で24時間営業に踏み切ったのは同店が日本で最初だ。
なぜ、そんな田舎で24時間営業が可能なのか。夜中に買いに来る客はいるのか。本当に売れているのか。今回はそんな数々の疑問に答えながら、新しい流通業の姿に迫ってみる。
24時間営業店は都会型商売
田舎立地で成り立つのか?
売り場面積1万1635uといえば、増床前の博多大丸(2万2000u)のほぼ半分である。つまり博多大丸の1階〜5階までを1フロアにしたスペースが、人口わずか2万7000人の町に出現したのである。それだけでも驚くのに、24時間営業と聞けば耳目を疑うに違いない。
場所は鹿児島県阿久根市。地図を見れば分かるように、隣接している街は鶴の飛来地で有名な出水市と川内市である。筆者も取材に出かけて驚いたが、間違いなく立派な田舎である。田舎に立派もそうでないもなかろうが、正真正銘の田舎。誰もが、まさかこんな所で、と思うに違いない。実際、筆者もこの目で確かめるまでは、失礼ながら「どうせ田舎にできた大型店。ホームセンターに毛の生えた程度の店舗だろう。商品構成やディスプレイもダサイに違いない」などと思っていた。実際そう思わせるぐらいの田舎立地なのである。まして24時間営業ともなると、本当に成り立つのかと首を傾げたくなる。
ここのところ規制緩和が進み、各地で24時間営業に踏み切るスーパーが増えている。ダイエーは神戸の「コウズ」ポートアイランド店が95年8月から24時間営業をしているし、九州スーパーマーケットダイエーも97年から24時間営業に踏み切っている。しかし後者は大店法の調整対象外の1000u未満の店舗であり、「コウズ」ポートアイランド店も売り場面積は8800uとAZスーパーセンターの1万1635uには及ばない。
このほか広島でも24時間営業に踏み切るスーパーがあるが200u前後で、コンビニを少し大きくしたミニスーパーというところだ。しかも立地は24時間活動している人達がいる市中心部かそれに準ずるところで、身の回り商品に食品を加えた商品構成の店であり、24時間営業は「都市部でこそ成り立つ商売」というのが業界の共通した認識だろう。実際、ダイエーは24時間営業の店を「大型コンビニ」と位置づけている。
ところが、アメリカでは24時間営業は当たり前、消費者のために24時間営業を推し進める、と言っていたダイエーが、最近、必ずしも24時間営業にこだわらないと方針を変換した。人件費や光熱費等の諸経費と売り上げを秤にかけると、経営効率が悪いという結果が出たからだろう。
いずれにしろ24時間営業に対する業界の共通した認識は@立地は都心部A規模は大型コンビニ、である。
初年度売り上げ50億円を65億円に修正
1日平均来店客数は約1万3000人
さて、阿久根市のAZスーパーセンターの場合はどうなのか。
オープンしたのは1年前の97年3月26日。場所は阿久根駅前から4qほど離れた郊外の国道3号沿い。鉄骨平屋建てで、食料品を中心に衣料、酒類、日用雑貨など生活必需品全般を販売。取り扱い品目は約16万アイテム。開店後6カ月間の来店客数は1日平均約1万3000人、客単価は昼間が3500円、夜間4500円。売り上げ点数も夜間の方が多い。こうしたことから初年度売り上げ予測を当初の50億円から65億円に上方修正したほどである。
この数字を見てもにわかには信じられないに違いない。それはそうだろう。福岡市近郊ならまだしも、どう考えても鹿児島の人口2万7000人のところで、24時間営業の大型店が成り立つはずがないと考えるのが過去の常識からすれば当たり前である。
でも、これが事実なのだ。問題は利益率だ、という声が聞こえてきそうだが、その点に関しては牧尾社長の次の言葉を引用しておこう。
「実は、当初予定より経常利益が上がったものですから、思い切って、長年私が考えていた、高齢者の方、身体障害者の方に対する還元・優遇処置を実行しようということで、7月10日から60歳以上の方と身体障害者の方に消費税5%分を現金でバックする制度を導入しました」
レジで支払いを済ませた後、カウンターに行きAZカードを見せれば買い上げ価格の5%を現金でバックするシステムである。
ダイエーあたりも年末年始のある時期に買い上げ金額の数%をバックするキャンペーンを実施しているが、それはあくまで交換期間限定の商品券である。
ところがAZスーパーセンターはキャッシュバックである。それも売ろうかなという意図が見え見えの期間限定キャンペーンではなく、障害者・高齢者を対象に年中実施しているのだ。
消費者の利益のためにエブリデイ・ロープライスとか、地域社会への貢献をうたう企業は多いが、同社ほど分かりやすい形でそのことを実行している企業はあまり例がないに違いない。
都会は進んで、地方は遅れている?
情報は都会から地方へのみ流れる?
では、次にAZスーパーセンター成功の秘訣に迫ってみよう。
キーはいくつかある。
まず一つは思考の盲点である。偏見と劣等感の構造といってもいいだろう。
都会は進んでいて、地方は遅れているという考え方である。
都会の人間は24時間生活を楽しんでいるが、地方の人間は夜早く寝るという偏見。
都会の人間はいろんな情報を知っているが、地方の人間が最新の情報を知っているはずがないという偏見。
情報(流行)は常に都会から地方へ伝達されるという偏見。
地方は都会に比べて遅れている、劣っていると自ら思い込む地方の人間の劣等感である。
だが、朝まで起きているのは東京の人間だけだろうか。
九州では福岡の人間だけが朝まで起きていて、鹿児島や宮崎の人間は夜9時になったら寝ているのか。
そんなことはないのは言うまでもないだろう。東京も福岡も鹿児島も宮崎も北海道も9時に寝る人間はいるし、朝まで起きている人間はいるのだ。つまり日本国中、いや世界がすでに24時間型社会なのである。
そんなことを言っても商店街は夜7時前には閉まっているし、飲み屋だって午前零時か1時には閉まる、と言うかもしれない。
たしかに遊びに行くところはない(少ない)かもしれない。だが、それぞれ家の中では24時間社会を楽しんでいるのだ。それが証拠に子供は自分の部屋で夜遅くまでファミコンやマンガを読みふけっているし、年寄りは朝4時に起きて衛星放送を見ているではないか。テレビは多チャンネル放送だし、衛星放送は24時間放送しているし、ビデオはどこでも見られる。インターネットを利用すれば最新のニュースやファッション情報でも、なんでも簡単に入手できる。
つまり、都会と地方の違いは屋外に24時間楽しめる施設があるかどうかだけで、人間の生活時間は全国どこでも24時間型になっているのだ。
逆にいえば地方ほど24時間楽しめる屋外施設に飢えているということである。そうした施設をつくれば集客できるということであり、まさにAZスーパーセンターはそうした施設なのだ。
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「午前0時閉店、0時半開店の準24時間営業でデータを蓄積し、
24時間営業を開始しました」
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