イフジ産業の設立は1972年。それから29年後の2001年8月にJASDAQ(ジャスダック)市場に上場した躍進企業である。ここで「躍進企業」と書いたのは設立約30年で上場したからではない。「数量ベースで毎年7%近い伸び」(藤井社長)を示しているからである。 もちろん、マーケット自体が10%近い伸びを示している業界なら、マーケットの拡大と共に7、8%の成長をすることはあるだろう。だが、同社の場合は成熟マーケットで成長しているのだから、まさに「勝ち組」。「勝つ戦略」に迫ってみたい。 (ジャーナリスト 栗野 良)
養鶏から加工卵へ
同社の事業内容は液卵・冷凍卵・茶碗蒸し・卵豆腐等の鶏卵・加工食品の販売製造である。液卵とは一般には耳慣れない言葉だが、業務用に使う、殻を割った卵のことである。この分野で同社は業界3位、約10%強のシェアを占めている。 藤井氏が現在の事業を始めるきっかけは、大学4年の時に急逝した父親がやっていた養鶏を引き継いだことである。当時、約500羽だった養鶏を、8年後には2万羽に拡大しているから、当時から商売熱心で、商才もあったのだろう。 ところが、その後200カイリ問題で漁獲量が減った水産会社が参入してきたり、大手商社も参入するなどで、一気に競争が激化。さらに貿易の自由化で海外から輸入冷凍液卵が入ってきた。それを見て、「これなら自分にもできる」と冷凍液卵の製造に着手したのだった。だが、「できる」と「できた」は大違いと言われるように、実際に製品化にこぎ着けるまでには3年を要している。 冷凍液卵は日持ちがし、相場に左右されないため、業務用にどんどん使われ、冷凍液卵の使用量は伸びていった。だが、世の中がフレッシュ志向になっていくと冷凍液卵の使用量も落ちていき、現在では15:85で圧倒的に生液卵市場になっている。同社の主力商品も生液卵である。
最後発ながらベスト3
ところで、卵は用途別に分けると、スーパーなどの店頭で売られているパック卵、外食産業などが利用している業務用卵、それに液卵などの加工卵となる。この内パック卵のシェアが約60%、業務用が20%、加工卵が20%である。 全国の年間生産量は250〜260tで、ほぼ頭打ち。つまり、卵は成熟市場で、もう何年も増えも減りもしていないのだ。その中でわずかに加工卵のみが2、3%ずつシェアを伸ばしている。 こうした市場で自社のシェアを伸ばすのは難しく、どの業界でも大体各社のシェアは固定しているのが一般的だ。 全国に約500社存在するといわれる卵加工メーカーでも、大手4社がシェアの半分強を占めている。大手4社とはキューピー、味の素、全農、イフジ産業である。シェアはキューピーが約30%、味の素、イフジ産業が約10%強、全農5%。残りのシェアを約500社で奪い合っているという状況だ。 大手4社の中ではイフジ産業のみが独立系。しかも毎年7%強で伸びているのだから、完全に業界の注目株。「なぜ、イフジだけが伸びるのだ」とライバル企業はイフジ産業躍進の研究にやっきになっているとか。
生産者も大事にする
「他社はユーザーサイドにばかり向いているが、当社は生産者サイドも大事にしている。これが大きな違いでしょうね」 躍進の秘訣について尋ねた時の藤井氏の返事である。 例えば、大手メーカーは生産者から年間ある一定量の卵を買い取るが、その場合、仕入れ量は毎月一定している。これは生産者にとって計画生産ができるから、一見非常に有利なように思える。だが、生産量が少ない時も一定量の納品を課せられても困る。逆に生産量が多くても一定量しか購入してくれないのも困る。 その点、イフジ産業の場合は年間通して一定量を確保するようにしているから、生産量が少ない時期は無理に一定量を確保せず、生産量が多い時に余分に買い取っている。この点が生産者から喜ばれているのだ。同社にとってはその分安く購入できるし、双方にとって分がある商いといえる。 もちろん、それが可能なのは工場の優れた保存技術があるからだ。
早かった関東進出
「ジャストインタイムで納入しますし、ユーザーの要望には必ず応えます」 これこそがビジネスの原点、と藤井氏は断言する。 例えば大手各社が生産現場に近いところに工場を建設しているのに対し、同社は関東、関西などユーザーに近い場所に工場を建設しているのだ。この戦略はフレッシュ志向の流れに見事なまでに合致している。 しかも同社の工場は全国4カ所。対して業界トップ企業は27工場。それで売り上げ比率は4倍だから、いかにイフジ産業の効率がいいかが分かる。 「関東、関西に営業拠点を出したのも早かった」 と藤井氏。実に28年前の1974年に関東営業所を設置し、翌75年に関西営業所を設置しているのだ。「消費地に早く出たのはいま考えるとよかった」と自身も振り返るように、大消費地で早く営業展開したことが、大手4社の中で最後発だったにも関わらず、シェアを伸ばした一因だろう。 そういえば躍進のきっかけになったのは山崎パンとの取り引きだった。半年通いつめて、その熱心さが認められて取り引きが始まったのだった。
今後は川下へ進出
さて、ここまで順風満帆で来た同社だが、卵市場が成熟市場である以上、今後も7、8%台の成長を続けられるかというと、それは難しい。そこで今後は「川下市場への進出」を考えていると言う。現在、同社には様々なところからM&Aの話が持ち掛けられているらしい。
(データ・マックス刊「I・B」 2002年夏期特集号掲載)
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