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中国で成功する方法(2)

現地化とは中国人をトップに据えることではなく、
現地の責任者に人事権、財務権を持たせることだ。


上海平野磁気有限公司  代表者:平野信幸董事長、呂振総経理
本社工場:上海市普陀区同普路1225号 長征工業区7号楼

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問題は日本人責任者
エース級を派遣せよ

 ーー中国で成功するためには文化・習慣の違いを理解すること以外にどういう点に気を付ければいいですか。
 平野 中小企業で大きな失敗するのは、一つは怪しげな中国コンサルタントに引っかかるからですが、もう一つは目先のコストだけを考えているからです。
 ここは1,400uぐらいありますが、家賃は年間月30万円。ところが蘇州に行けば半分程で借りられる。だから離れたところに行きたがるんですが、年間200-300万円コスト削減してどうなるか。その程度のコスト削減をしなければいけないのなら来ない方がいい。
 それより何が問題かというと、現地の日本人責任者ですよ。社長はたまに出張で来ていいホテルに泊まって、送り迎えしてもらって、「頑張れよ」でいいでしょうけど、現地の責任者は相当ストレスが溜まりますよ。
 上海なら日本人のコミュニティーはあるし、食べ物だって日本食はあるし、日本の本だって読めるが、単に安いからというだけで地方に進出すると息抜きなんてできないでしょう。事情が分からなければ遊びにだって行けない。そういう負担を強いて、年間300〜400万円ぐらいコスト削減しなければできないような事業なら来ない方がいいと思いますよ。
 働く現地の責任者にやる気があるかどうかで年間数100万円ぐらいの利益はいくらでも上がるわけです。
 なによりの問題は2線級3線級の人間を現場の責任者で送り込むことです。例えば東京の企業が九州に工場を造る時に2線級、3線級の人間を送り込んで、その工場がうまく行きますか。うまく行くはずないでしょ。それと同じですよ。
 エース級の人材を投入するから本社への要望もスムーズに繋がるし、本社は本気でバックアップするんだと現地のスタッフも思い、やる気が出るんです。

苦労したのは文化の違いを
自分自身が認識すること

 ーー上海に会社を創られて10年。その間に一番苦労されたのはどのようなところですか。
 平野 そうですね…。苦労といえば、文化の違いを自分が認識することでしたね。
 総経理は元々私の会社で働いていた人間ですからね。留学生で日本にきている時にうちで働いていた人間ですから、その時の上下関係がありますよね。俺の言ったことをやれ、という。そうではなく彼とは対等のパートナーなんだ。自分が中国に来ているんだから、中国の文化を自分が理解しなければならないんだ。自分の考えを押し付けて決めてはいけないんだということを認識するのに苦労しました。
 進出から数年、業績が思うように伸びなかった時期がありました。一つには部品を買ってくれるだろうと思っていた日系企業が、現地調達にほとんど関心がなく当てが外れたこともあります。それで対象を中国企業に替えてから業績が伸び出したんです。
 ところが、その内変なことに気付いたんです。仕事はあるのに業績が伸びない。なぜだと思って調べてみると、中国人というのは自分の仕事を抱え込んで人に譲らないんですね。どうも人に自分の仕事を譲ると自分の仕事がなくなると考えているのか、仕事を覚えるとその人間が辞めていくと考えているのか分かりませんが、とにかく仕事を教えない。これでは事業が発展のしようがない。
 そこで、1人で仕事を抱え込んでいてはいつまでたっても事業は発展していかないよ。君はいつまでもいまの仕事のままでいいのか、もっと大きな仕事をするためにはいまの仕事は人にやらせ、君自身はもっとレベルの高い仕事をしていかなければならない。そのためには他の人間にどんどん仕事を教えなさい、と事あるごとに言い続けたんです。そして彼(総経理)の意識が変わると、事業が大きく発展しました。 

                     

人を大事にしないから
1、2年で転職する

 ーー中国では人材の流動が激しいと聞きます。1、2年で辞めるとか、給料がいいところにすぐ移る、と。
 平野 日系企業の中からはそういう話をよく聞きますね。春節に労働者が帰省したまま帰ってこないとかね。だから、春節から帰ってきたらボーナスを出すようにしているというところもありますよ。
 1、2年で辞めてくれた方が人件費が上がらなくていいなどと言う企業もありますが、それはとんでもない間違いです。新しく採用した人は当然、生産性は前の人より落ちるわけだし、募集費などを含めた総コストを考えたら結局高くつくんです。目先の経費のことばかり考えていてはダメですよ。
 労働者が帰省したら帰ってこないと言いますが、それは人を大事にしていないからです。給料だけでなく、トータルでこの会社は働きやすいと彼らが感じれば、逆に地方に帰った時に仲間を連れてきますよ。こんないい会社はないからお前も働けと。そうなるようにすべきなんです。
 当社はシンセンにも工場を出しましたが、社員寮を見に行くと暑いから皆、裸で寝ているわけです。それですぐエアコンを付けるように言ったのですが、その時寮を管理している中国人が「あなたのような日本人は初めてだ」とビックリしていました。
 しかし、寮に帰っても暑くて寝られなければ、翌日は寝不足で仕事の効率も上がらないでしょ。給料だけじゃないんです。働きやすい環境も含めてトータルでこの会社はいいと考えれば、彼らは1、2年で会社を移ったりしないですよ。
 不良品を出したり、遅刻をすれば罰金を取るというように、従業員に対する「罰金制度」を導入している進出企業が、日系企業だけではなく、台湾系、欧米系にもありましたが、私はそれを廃止し、逆に褒賞制度を取り入れました。その方が従業員もやる気が出てくるでしょう。

現地化し、ビジョンを語ること

 ーー進出企業が失敗しないためには、そのほかどのような点に気を付ければいいでしょうか。
 平野 最近、「現地化」ということがいわれていますが、「現地化」とは中国人をトップにすることだと考えているとすれば、それは間違いです。いくら現地人をトップに据えても、その人に人事権も財務権もなければ、それは現地化とは言わない。決定権がないんだから、なにかあれば本社にお伺いを立てなければならない。そうすると思い切った手も打てないし、社員もトップは本社の利益のことばかりで我々のことは考えてないんだと思いますよ。
 現地化とは現地人をトップに据えることではなく、現地のトップに人事権、財務権を与えることなんです。
 日本企業には長期的な展望とか発想がないですね。日本なら将来のことは会社に任せておけばいい、で通用するかもしれませんが、中国ではダメです。中国人はステップアップすることを考えていますから、会社の5年後、10年後のビジョンを語り、その中であなた自身もどうステップアップしていけるのかというビジョンを提示していかないと、給料がいいところにすぐ移っていきます。将来のビジョンがないと結局、判断するのは給料になるわけで、なにも中国人は給料だけを求めて移っているわけではないんです。
 ーー権限委譲と将来のビジョンを語るというのは日本企業が最も苦手とするところだと思いますが、それを実行しないとダメということですね。
                                   (聞き手・ジャーナリスト 栗野 良)

                                     

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