昨年9月、11月、今年2月と連続3回、有田ニューセラミックス研究会が主催する研究会で講師を務めさせてもらった。場所は3回とも佐賀県窯業技術センター。
有田焼の産地が地盤沈下に苦しみ、ピーク時に比べ出荷額が3分の1にまで減少しているらしい。こうした状況を打破し、有田再生の道を探るために、同一講師による連続研究会を計画したとのことだった。
その講師に不肖私が選ばれたが、07年にやはり同研究会主催の講演会で講師を務めたのがきっかけだった。その時の講演内容が多少なりとも評価されたのだろう。だが正直にいえば、同一メンバーを対象に連続でセミナーを開くというのはそう楽ではない。
というのは、一般的に講演は毎回異なる対象者を前に話をするのが一般的なスタイルで、今回のように毎回同じメンバーをまえにセミナー形式で話をする場合、話の内容は毎回変えなければならない。毎回新しい素材、材料を提供し、それについて考えてもらわなければならないので、その分こちら側に引き出しが多くないとなかなかできない。それでも、なんとか不評を買うことなく無事大役を果たすことができたようだ。
ところで、地盤沈下に苦しんでいる産地は有田に限らないだろう。家具や織物などの産地でもおそらく同じような現象に見舞われているのではないか。そこで他地域、他産業にも多少の参考になればと思い、3回シリーズで話した概要を以下に紹介してみたい。
まず、研修会の依頼を受けた時、最初に考えたのはシリーズタイトルをどうするかだった。講演でも論文でも製品開発でもテーマタイトルがきっちり決まれば80%はうまくいく。抽象的過ぎず、具体的過ぎず、タイトルを目にしただけで、今回のセミナーは何を問題にしようとしているのかが分かるものがいい。
そこで研究会の主要メンバーと相談しながら次のように決めた。
全体を通した統一テーマ:有田(焼)が生き残るために必要なものは何か
1回目:伝統産業企業の現状と挑戦〜有田(焼)ブランドをどうするのか?
2回目:有田(焼)ブランドを再構築する経営戦略とは
3回目:有田陶磁器産業の進むべき道
1回目は「伝統産業の地盤沈下を<ブランド戦略>という角度から考えてみる」ことにした。
有田焼ブランドとはなにか
ブランド確立のためになにをしてきたのか、なにをしなかったのか。
少子高齢化社会で消費はどうなるのか。
5年後 人口95%に
10年後 人口85%に
問題は10歳〜40歳(絶対消費人口)が大幅に減少すること
人口が90% → 消費85%
地域ブランドの例:京都
京都 着物を着て街を歩く旅行ツアーも
先斗町 出入り口に貸衣装屋さん
福岡も真似て、太宰府着物ウォーク
西鉄電車割り引き
博多織:着物を着る文化を育成
若いデザイナー養成
着物を着て街を歩くイベント実施
ブランドは変わるものでもある。
代表的な例:ファッションブランド
創業デザイナーは残っていない。
ブランドだけが残っている。
ブランド名は変わってないが、中身は時代に応じて変化
ブランドマーケティングをどうするか
国内だけで考えるか、海外で通用するブランドにするか
有田焼−−積極的に海外に輸出してきた歴史
変化する家電製品
カラフルな色
家電製品 → インテリアとしての捕らえ方(若い層)
成熟市場:機能から色やデザインでの差別化
<有田(焼)ブランドを再構築する経営戦略とは>
2回目は「個々の企業の経営戦略について考える」ことにした。
メーカーが直売をする理由はどこにあるのか
小売りのトレンドはSPA(製造小売業)
価格設定に必要な3つの視点
原点は消費の最前線
データベース化とは何か
顧客を失う最大の理由は
<有田陶磁器産業の進むべき道>
3回目は1、2回目でどういう議論が出、今後どういう方向性でものを考えていくのか、を提示した。
「ブランド力」とは何か
歴史上の人物はいかにブランドを利用し、自らにブランド力を付けていったか。
宮本武蔵の例
織田信長の例
「モノを売る」から「文化を広める」へ
オールドセラミックスとニューセラミックス
伝統産業もかつては革新的だった。
いま守りに入っている
「集積」がキーワード 地域も産業も
美術館による地域おこし
同じ素材、異なった結果
香川県直島・地中美術館 VS 岡山県・奈義町現代美術館
ともに建築家がプロデュース
安藤忠雄 VS 磯崎新
以上のような内容で毎回2時間セミナーの講師を務め、セミナー終了後は懇親会で皆さんと楽しく交流もさせてもらったのみならず、2次会、3次会と楽しい時間も過ごした。(その時の写真はブログ「栗野的風景 」にアップしている)。
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