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ボーイング777や国立劇場にも採用された
日南家具工芸社の木材3次元加工技術


株式会社日南家具工芸社 社長 池田誠宏 氏
宮崎県日南市隈谷 電話:0987-27-1711

 国立劇場の天井音響パネルやボーイング社の厨房・トイレのドアを作っている会社が宮崎・日南にある、と聞いて半信半疑で取材に出かけた。国立劇場にボーイング社と聞けば最新鋭機械を導入した最先端工場をイメージするが、一見した限りどこにでもある木工所という感じである。導入されている設備も表面的には最新鋭にも特殊機械にも見えない。にもかかわらず「仕事は100%受注」と池田誠宏社長は言う。営業らしきことは一度もしたことがないのに先方から仕事の依頼が舞い込む、とも。なかには部材を先に送りつけておいて、後から電話で依頼をするところもあるらしいから、よほど技術力が高いか、かなり特殊な技術を持っていることになる。

NCルーターを導入
加飾分野に進出

 「直線はどこでもやるからうちではやりません。うちはらせん階段のような曲がったもの、大型が主です。それも2次元で曲がったものよりは、ひねったような3次元に曲がったものが得意です」と池田社長。
 いまでこそ「曲がりもの」を得意とする株式会社日南家具工芸社(宮崎県日南市隈谷、従業員25人、電話0987-27-1711)だが、最初はありふれたごく普通の家具製造会社だった。転進を図ったのは叔父である前社長が急死し、それまで自動機器の設計開発会社、ミヨシ技研を経営していた池田氏が急きょ呼び戻され社長に就任してから。
 といってもいきなり現在のような特殊加工の分野に進出したわけではない。ただ「いずれ箱ものは落ちてくるという漠然とした考え」があったのは事実で、まず脱タンスを目指し特殊家具分野へのチャレンジを開始する。その時、決めたことが二つ。一つは「大川がしないものをする」ことだった。福岡県の家具産地・大川と張り合っても価格競争に巻き込まれるだけで、メリットはないという読みからである。
 幸いだったのは当時、3000万円もした数値制御加工機、NCルーターを前社長が購入していたことだ。大川でも数社しか購入してなく、それも例外なくホコリをかぶっていた。そのため設備投資負担のみが残り「NCを買うと倒産する」とうわさされたほどだった。当時はまだコンピューターも今ほど発達してなく、プログラムを一つ一つ手で計算して入力しなければならず、これがやっかいを極めたからである。
 その点、池田氏は工学部機械出身。もともと先代社長がこの機械を購入したのも池田氏のプログラム入力を当てにしてのことである。池田氏がNCルーターを活用したのはいうまでもない。
 「NCルーターを使ってタンスに飾りをつける加飾材を作り、大川や都城の家具製造会社に納品していたんです」
 この加飾分野への進出がきっかけになって現在の特殊加工技術を確立することになる。

輸送費も材料費も
発注先が負担

 二つ目が「航空便で送ってもペイできる付加価値の高いものを作る」ことだった。現在でも家具の輸送はトラック便が一般的である。それを10年以上も前に航空便の利用を考えたのだ。たしかに日南は大阪・名古屋・東京という大消費地から遠く、輸送費、輸送日数の点でハンディがある。航空便を利用すれば輸送日数の短縮、つまり納期の短縮につながる。だが、輸送費は逆に高くなる。しかし、発注元が輸送費を負担してくれれば問題はない。そのためには輸送費持ちでも発注したくなるだけの技術なり付加価値がなければならないが、現在では加工賃より航空運賃の方が高くつくような注文もあるそうだ。
 最初からこうしたやり方が可能だったわけではない。「武士は食わねど高楊枝に似た状態もありました」と当時を振り返る池田氏。当初は受注すると材料を先方から送ってもらっていたのだ。資金負担を減らすためと、先方が指定する材料を揃えるのが大変だったからである。
 その代わり、どんなに難しい仕事にも「できないと断ったことは一度もない」し、納期第一で今日まできている。こうした姿勢が評価され、ボーイング777のトイレや厨房のドアはすべて同社で加工。出来上がったドアは船便でアメリカのボーイング社へ送られ、そこで飛行機に組み込まれている。このほかに群馬県立博物館の手すり、神戸ハーバーランドのベンチ、神近・ハウステンボス社長の別荘の手すりなども手がけている。

今後は木製介護製品
イージーオーダーも

 現在はCADの進化でどんなに複雑な形状のものでも比較的簡単に設計できる。だが、その分、施工段階ではますます難しさを増しているのが現状である。例えば幅一bの木をカーブしながら削るにはどうすればいいのか、それも一方向へのカーブではなく、二方法へカーブしている場合は等々。
 こうした加工技術を支えているのがNCルーターなど同社の加工機械である。なかでも数年前に導入したCNCルーターは北川鉄工(広島)に特別注文でつくらせたもので、開発に2年を要している。ルーター刃は360度の旋回と全角度で上下に100度の傾斜が可能。このほかカッター刃、カンナ刃などが1軸〜4軸まで装備。
 「よくこんなものを作ったな」
 国立劇場の天井音響パネルを現地で組み立てて最終検査を受けたとき、検査に立ち合った設計者がこう感嘆の声を漏らした。1.2b幅のパネルを次々に継ぎ合わせて16bの長さにするのだが、最終的に誤差はわずかに5_以内。この種の木工製品では驚異的な精度だった。
 さて、今後の方向について池田氏は「別に家具だけをやっていくつもりはない」と断言する。「ただあまりかけ離れたものに飛ぶのは危険だから、輪を広げるように周辺に広げていきたい」と。
 現在、同社が得意としているのはホテルなど高級施設の飾り物。いわゆる加飾の分野であり、「この分野は今後も伸ばしていく」予定である。ただ、加飾分野はプラスチックと競合し、過去プラスチックに市場を奪われてきた苦い経緯がある。しかし、それも「プラスチックに奪われたものをもう一度木製に戻せばいいし、それは可能だ」と言う。単価的には安いものと高級品とに二極化する傾向にあるが、近年の本物志向が追い風になると考えている。
 「今までは受注オンリーの待ちの姿勢でしたが、今後は少し積極的にこちらから提案していくことも考えています」
 その第一歩として今年度、宮崎県から地域中核企業育成助成金を受け、木製介護製品の研究・開発に着手。さらに「今後はイージーオーダー的なものを作っていきたい」と意気込む。特に介護製品などは一人ひとりに合わせたものを作る必要がある。といって完全オーダーでは価格が高くなりすぎる。何種類かのパターンの中から選びながら、一人ひとりに合わせていくイージーオーダーの発想だ。今後、この方法を同社の全商品にも取り入れていく予定。宮崎発の技術がまた一つ増えそうだ。

参考画像.A 写真:国立劇場の天井音響パネル。
   写真では立て掛けられているが、
   実際にはこの面が天井になる。
参考画像.B 写真:ひねりを加えられた階段の手すり。
   こうした3次元加工が
   同社の得意技術である。


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