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福岡金網工業に見る強い日本型経営


企業の真価は3代目で問われる

 職業柄様々な企業を取材しているが、書きやすい企業とそうでない企業がある。
書きやすいのはカリスマ的な経営者や、1代で急成長している企業。こういう企業はドラマがあるから書きやすい。
 逆に書きにくいのは歴史はあるが、カリスマ経営者が出現して会社を急成長、あるいはV字回復したなどのドラマがない企業。ところが、こういう企業こそ経営が優れていることが多い。
 ジェームズ・C・コリンズはそういう企業の中にこそ「ビジョナリー・カンパニー」と呼べるものがあると指摘している。(ビジョナリー・カンパニーとはビジョンを持っている企業、未来志向の企業、先見的な企業、業界で卓越した企業、同業他社の間で広く尊敬を集め、大きなインパクトを世界に与え続けてきた企業)
 ところが、長く続いている企業、例えば3代以上続いている(昔から3代目が身上潰すといわれるように、3代以上続くかどうかで企業の真価が問われる)とか、100年以上の歴史がある企業には、カリスマ経営者がいたり、ドラマチックな動きがないことが多い。

 例えば徳川幕府が300年近い長期政権を誇ったのは歴代将軍の能力が高くて、その人物が組織を引っ張ったのではなく(もちろんそういう人物も輩出しているが)、優れた組織を作ったからであり、組織力の強さが組織を継続させたのであり、時に卓越した指導者を輩出したのである。

 コリンズは「ビジョナリー・カンパニー」について次のように言っている。
「代々の経営者が優秀だから卓越した企業になったのではなく、卓越した組織だから優秀な経営者が輩出し、継続性が保たれている」と。

 賢明な読者はもうお気付きだと思う、ビジョナリー・カンパニーと日本型経営の類似に。かつて強かった日本的企業こそビジョナリー・カンパニーといえたのではないかと。
 では、なぜ日本型経営の見本ともいえる徳川幕府は潰れたのか、バブル期とその後に来たバブル崩壊で、急成長した新興企業のみならず、老舗企業の経営まで傾いたのかについては稿を改めることにし、ここではちょっと気になる身近な企業に見る日本型経営の強さを紹介してみたい。

新規事業に積極的に挑戦、撤退は素早く

 社名は福岡金網工業(株)(福岡市博多区吉塚1-3-11)。
コンクリート2次製品補強用の鉄線・鉄筋網の製造・加工販売を主にし、全国に9工場、2出張所がある。
 こう聞けば、この時期、経営は大変だろうと思うに違いない。「小泉改革」以来、公共工事がガタ減りしているところにもってきて、不況に民主党政権でさらに公共工事が減少しているからである。建設関連企業はどこも青息吐息。同社とて例外ではなく「そりゃあもう大変ですよ」と山本社長。とはいうものの、ここ数年、売上高は20億〜25億円で推移しているというから、土砂降りの業界内ではうらやましがられている存在だろう。

 では、なぜ同社の経営は安定しているのか。その秘訣ともいえるものを見てみたい。
1.オープン経営
 経営のオープン性が社員のモラール(士気)を高めるとはよく言われるが、同社はオーナー経営であるが、決算報告書を社員にオープンにしている。
「各工場がそれぞれ自分の工場はどういう状況かを認識してなければいけませんし、工場によってボーナスその他が違っても、決算書で常にオープンにしているから、あの工場は利益を出しているからだと社員も納得出来るでしょ」

2.手形を発行しない
 同社は手形を発行していない。原則、現金取り引きを貫いている。原則と記したのは一部大手企業の中にはどうしても手形決済というところもあるからだ。ただ同社の方からは手形を発行しない。そのため取引先には喜ばれているばかりか、同社自身もキャッシュフローの経営を行うことになり、そのことが経営の健全化にも繋がっている。

3.果敢にチャレンジ、ダメと思えば素早く撤退
 常に新規事業の種を探し、果敢にチャレンジしている。
その一方でダメと思うと素早く撤退している。新規参入には積極的だが、撤退が遅れ赤字を拡大する企業が多い中で、同社を特徴付けているのは撤退の素早い決断ともいえる。
 例えば新規事業分野で大きくなった部門にパソコンのリサイクルを含めた産業廃棄物事業がある。
 逆に物流部門のように撤退した事業もある。一時期はかなり好調だったが、他部門とのシナジー効果が認められない、従業員教育の問題に、ガソリン価格の高騰もあり、サッと撤退した。しかも、撤退時には物流部門従業員の再就職も全部決めたという。

 古来、先発より殿(しんがり)が難しいといわれるように、経営者の力量が試されるのも進出時よりは撤退時である。時期を見誤らず、どのような撤退の仕方をするかだろう。
 コリンズも「ビジョナリー・カンパニー」が成功しているのは「大量のものを試し、うまく行ったものを残した」結果だと指摘している。

4.勉強熱心
 私が山本健重社長を意識したのは各セミナー会場で見かけた時である。いつもリュックを背負い、ハットを被られていたので、その姿は記憶に残っていた。勉強熱心な方だなという印象だった。もうかれこれ10年あまり前になる。
 先日、リエゾン九州の勉強会でちょっと話をしていただいたが、その時に面白いものを披露された。ペン先が光るボールペンライトである。夜中でも思い付くとすぐメモできるように常時持ち歩き、夜は枕元にメモ帳と一緒に置いているとのことだった。
この姿勢である。不況下でも売り上げ、利益ともに維持できているはずである。
 このほかにもバランスシート経営とか、社員の自主性とか色々あるが、少なくとも山本社長はカリスマ経営者ではないし、自身の秀でた能力で先頭に立ち、組織をガンガン引っ張っていくタイプの経営者でもない。
 それよりは山本社長の経営は「気配り、目配り、心配り」(氏が好きな言葉)ではないだろうか。そういうことも含めた日本型経営が同社の強さの秘密ではないかと思うが、この先は分からない。



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